第一章 砂漠の一家

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「あんた、自分の名前まで忘れたのかい? あたしはチェ・ミナ。何か思い出せることは? ……どこの国の人?」 「僕は田中友郎……確か、僕は確か……こことは違う国の人間だ。国は……なぜか自分の国までは、どうしても思い出せない!」  僕が答えに窮して頭を抱え込んでいると、その少女は興味深そうに僕の顔を覗き込んできた。 「どうも演技じゃなさそうね。嘘をつく者はすぐに分かる」  過酷な環境で暮らしてきたためか、ミナと名乗る少女は大人びて聡明な感じがした。何と言うか、まるで隙がない。僕は助けてもらう代償として拳銃を差し出してしまったが、弾倉は彼女から返してもらえた。  ボトル入りの綺麗な水をしこたま飲んだ後、溜息のような声を上げ、やっと生き返ったような感じがした。膝を抱えて休んでいると羊が邪魔しにやってくる。   荷台に響くエンジンの騒音と羊の匂いにやられ、気を失いかけた時、トラックはやっと目的地に着いて止まった。  彼らの住居であろう二階建ての巨大な仮設住宅は、広大な牧場の中央に位置していた。近くにはオアシス状の小さな貯水池も見られる。周りに集落はなく、全くの一軒家だ。  僕は慣れない手つきで売れ残った羊を囲いの中に押し込むのを手伝った後、色々と彼らの暮らしぶりを観察した。     
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