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若き日の老人は、趣味の芸術家であった。
老人、すなわちその日の青年は、親の目を盗んで女性の像を描いていた。
彼の家は代々小道具などを作る職人であり、一定の評価と地位を得ていた。
跡取りである彼も当然その技術を受け継いでいたが、親や世間の言う通りにそのまま同じことをする気にはなれなかった。そこで彼は商売道具を拝借して像を作ることにしたのだ。
老いた今でも、若気の至りと一言で片付けるのはもったいないと思えるほどの熱意だった。
その頃の彼は、両親が事あるごとに結婚して家庭を作れと迫ってくるので、うんざりしていた。生き方を選べない時勢への、反骨心の賜物だったのかもしれない。
とにかく彼は、暇を見つけては一心不乱に細工をしていた。ある時は藁で編み、ある時は木に彫り、ある時は石に描いていた。
それでもどれも納得がいかず、その日は竹炭を使ってみることにした。削ってみたり、砕いてみたりしながら、内なる感情を爆発させるすべを探す。
「ああ、どれも駄目だ。こんな物では満足できない」
やがて彼はうんざりして竹炭を放り投げ、空を仰ぐ。
美しくない。
彼の美意識を満足させるだけの作品が、どうしても作れない。
彼の心の内側には、確かに存在するのだ。美しい風景画が、美しい女性が、美しい字が、確かにあるのだ。
しかしそれらは実在することを拒むかのように、彼の手から躍り出てくれない。彼の中にある芸術は、いつまで経っても幻のままだ。
「私でなくとも、いっそ誰かが再現してくれればいいのに。この美が生まれ落ちてくれるのなら、私は全てを投げ出しても構わない」
彼はその日、美の誕生を天に祈った。
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