かつて光に満ちていた、ある豪邸で。

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その日、彼は無二の宝を得た。 青年だった頃から数十年、そろそろ人生の終わりが近づいてきた頃のことである。 老人は芸術を趣味の範疇に留め、職人になっていた。 誰もが食うや食わずのご時世に芸術一本で生きていけるはずもなく、結局は工芸品を作ることで食っていくしかなかったのだ。 しかし彼の心の中にくすぶる炎が消えたわけではない。彼の内側では芸術的な欲望が、解放を求めて激しくのたうちまわっていた。 老人の死は刻一刻と近づき、もうすぐそこまで来ている。それにつれて欲望はますます勢力を増していく。 このまま死にたくはない。作品を生み出さねば。この世の誰もが認める美しい作品を。 老人は醜くなっていく己から目を背け、ただひたすらに美を追い求めた。ついには寝食を忘れ、文字通り命を削って創作に打ち込むようになっていった。 描き、彫り、塗り、眺め、最後には壊す。 無数の作品が生まれては消えていく。老人の知るあらゆる技法が、彫刻、あるいは絵画となって、そして消えていく。 そして、その日も満足いく物が作れないまま、老人はいつも通り材料を調達しに山に入っていった。 そこで彼が見たものは……。
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