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死の間際。
老人は寝返りをうち、山の方角を見た。
彼の人生で幾度となく足を踏み入れた山。特に何も語る要素のない、何の面白味もない山。
「思えば、あの山で拾ったガラクタで美を生み出そうとしていたのが、そもそもの間違いだったのかもしれない」
老人はその日山で拾った赤子を見て、理解してしまったのだ。
究極の美は矮小な人間の手で生み出せるものではなく、大いなる自然より生み出されるものでもなく、
天より堕ちて、偶然に現れるものだと。
「ああ、かぐやよ。お前のいない人生に、何の意味があるだろうか」
老人は枯れた山の向こうに、青く気高い富士の山の幻影を見た。
思わず手を伸ばそうとしたが、指先すら届かず、そのうち目の前が暗くなっていった。
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