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「ご冗談……セザンヌの絵よりあなたのキスに価値があるって?」
憎まれ口を叩いてみるけれど。
「少なくともリンゴにもナプキンにも口はないだろ?」
柔らかいキスは心地よかった。
「うん……」
「指もない」
「当たり前でしょ」
頬から首筋にかけて撫で下ろす椎名さんの指からは
不思議と青いリンゴのような匂いがした。
「で?まだ静物画の方がいいわけ?僕の可愛い子は——」
10個のりんごに見つめられながら
しばし彼に身を任せていると——。
「だから気分なんだって——」
ここのところの怒涛のような出来事が
悪夢みたいに頭の中を駆け巡る。
「少なくともりんごもナプキンも愛について僕を悩ませないから」
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