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「そう、僕は待っていたんだ――嵐が通り過ぎてゆくのを待つように、ただ待ってた」
自嘲気なニュアンスで美しい唇を微かに歪める。
と九条さんは僕の手を引いて黄色い薔薇の花瓶の前に立った。
「どうしようもないだろう?自分じゃどうすることもできないんだ」
今の今——力尽きた薔薇のまだ瑞々しい花弁を
白く繊細な指先が拾う。
「僕を怒ってもいいよ。感情のままに」
「感情のままか」
僕の口から飛び出した稚拙な言葉に
九条さんはほんの少し逡巡し微笑んだ。
「前にそんなことがあったね——僕が感情のまま君に怒りをぶつけ、君を閉じ込めて、隷属の印にこれと同じ黄色い薔薇の花弁を食べさせた。覚えてる?」
彼の指先で捻られた花弁から途端に——。
「もちろん……もちろん覚えてるよ」
淫靡な記憶を呼び起こす
甘い香りが漂ってくる。
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