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「またやってみるかい?」
冗談とも本気とも取れる声音で
九条さんは静かに囁いた。
「あなたに従う」
コクンと小さく喉が鳴る。
怖い気もしたし欲しい気もした。
「しかしね、今ならどこに隠れても僕はあの怪物に食い殺されるだろうな」
僕の髪に指を絡め奪うように抱き寄せると
ドアの方を向いて九条さんは鼻で笑った。
「あ……」
そう。
一人と一匹の
足並みそろえた足音がするんだ。
やがて小さく鼻を鳴らし先刻の怪物——。
いや巨大なシェパードはドアの前で立ち止まったようだった。
「僕が帰って来たのがバレてるのかも……」
呼吸音さえ立てないよう僕は両手で口元を抑えて。
声にならない声で必死に訴えた。
なのに——。
「バカだな。ここへ戻ってきたら犬がいなくたってバレるさ」
「え?」
「一つ屋根の下なんだから——」
何を思ったか。
九条さんは僕の手を引いてドアに向かって進んでゆく。
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