episode251 天宮和樹はまた振り出しに戻る

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「またやってみるかい?」 冗談とも本気とも取れる声音で 九条さんは静かに囁いた。 「あなたに従う」 コクンと小さく喉が鳴る。 怖い気もしたし欲しい気もした。 「しかしね、今ならどこに隠れても僕はあの怪物に食い殺されるだろうな」 僕の髪に指を絡め奪うように抱き寄せると ドアの方を向いて九条さんは鼻で笑った。 「あ……」 そう。 一人と一匹の 足並みそろえた足音がするんだ。 やがて小さく鼻を鳴らし先刻の怪物——。 いや巨大なシェパードはドアの前で立ち止まったようだった。 「僕が帰って来たのがバレてるのかも……」 呼吸音さえ立てないよう僕は両手で口元を抑えて。 声にならない声で必死に訴えた。 なのに——。 「バカだな。ここへ戻ってきたら犬がいなくたってバレるさ」 「え?」 「一つ屋根の下なんだから——」 何を思ったか。 九条さんは僕の手を引いてドアに向かって進んでゆく。
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