【あなたを夏に例えてみようか】

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久々に訪れる母校。 はしゃぐ高校生たちの姿。 10年前。たった10年前、わたしもそんな彼女たちのように毎日がとにかく楽しかった。 でも、その楽しさとともに思い出されるのは…淡い、恋の思い出。 ◆ 「失礼しまーす」 「あ、土岐ちゃん。」 もさもさとフルーツ味のそれをお昼がわりに食べていたのは、英語の中山先生。 午後はこうやって、英語科の準備室でお昼を食べるのがわたしの日課。 「まーたそんなもの食べて!栄養偏りますよ?」 「いやー朝バタバタしてて…」 「そんなことだろうと思ってましたよ。りんごいります?」 「え、もらっていいの?」 屈託のない笑顔を浮かべる中山先生。 みんなからは愛称のカズさんと呼ばれている。わたしもその例に漏れない。 「てかカズさん。さっきの英語の授業目が死んでましたけどちゃんと昨日寝てます?」 「寝てるよぉ…3時間くらい」 「そんなの寝たうちに入りませんよ!!」 「いやぁ、いよいよやばいよね?」 「他人事でもないですッ!」 自分の健康のことなのに、どこか他人事のようにあっはっはと笑うカズさん。 そんなカズさんの笑顔が、わたしは好きだ。 カズさんを好きになったのは、初めて彼の英語の授業を受けたときから。 『僕はみんなのセンター試験のための勉強なんて一切しませーん!将来のための、そうだな。君らが大人になったときの拠り所の一部みたいな授業をする予定でーす』 自称進学校だったうちの高校は、正直頭の固い【センセイ】ばっかりだった。 だから、三年生になって初めて赴任してきたカズさんの第一声に、わたしは面食らった。 ぶっちゃけ大人なんて一切信用してないし、心のどこかでクソだと思ってたけど。 でも、カズさんなら、この人なら信じられると初めて思った。 「いやー今ちょっとまた新しい発見をしてさ?」 「またシェイクスピアですか?」 「そうそう。なんで英文学って読めば読むほど面白いんだろうねー」 カズさんは英語教師の傍ら、大学時代からずっとシェイクスピアの研究をしていた。 なんでも中学生の頃に初めて読んで、ものすごく衝撃を受けたらしい。 「…わたしは、あんな恋愛イヤですけどね」 「え?」 「だって、シェイクスピアの作品って」 ーー男と女の恋が、報われた試しがないじゃないですか。
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