【あなたを夏に例えてみようか】

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「そう?でも喜劇は大抵大団円に終わってカップルもくっついてハッピーエンドだよ?」 「そうですけど。でもだいたい有名な作品は悲恋に終わるじゃないですか」 「おやおや??土岐ちゃんシェイクスピア読んでるの?勉強熱心!えらいえらい!」 「か、カズさんにゴリ押しされて読んだだけですよ!ちょ、頭を撫でないでください!」 カズさんはわたしの頭をよく撫でる。 カズさんの顔も体も性格も仕草も、すべて好きなわたしでも、この行為だけは大嫌いだった。 「…子供扱い、しないでくださいよ」 「え??僕からすれば、30近くも年が離れてれば立派な娘だよー」 「それでもあと2年もすれば立派な成人ですよ」 「そうだね?」 「って聞いてないッ!!」 カズさんはマイペースにお茶を飲む。ちゃっかりわたしの分まで用意してくれている。 そういう人なのだ。この人は。 いつも生徒に寄り添ってくれる。それでいて、時折怖いくらい鋭いことを言ってくる。 「ところで、土岐ちゃんさ」 「はい?」 「ーー進路変更、したって本当?」 一瞬鋭くなったカズさんの目に、わたしは固まってしまった。 なんで、カズさんが知ってるの?さては、あの担任チクりやがったな。 「…本当、ですけど」 「なんで?」 「なんでって…」 わたしは、大学進学を志望していた。 志望したのは、カズさんの母校。偏差値はそこそこ高いけど、がんばって勉強もしていた。 特に英語の成績は、自分でいうのもなんだけど目ざましい成長を遂げていた。 一年生の頃の、5段階評価で2スレスレだったあたしに聞かせてやりたい。 でも、あたしは大学進学を諦めた。 別に親に反対されたからとか、そういうことではない。 なんとなく、就職したほうがいいんじゃないかと思ったからだ。 そう。ほんとうになんとなく。 「…何かあったでしょう」 言おうと思ったのに。なんで、わかっちゃうかな。 ほんと、そういうとこ。 「…親戚にさ」 ぽつりと、つぶやきに近い声音に自分でもびっくりした。 「女が大学に行くなんて、って言われたんだ。女は女らしく、早く結婚しろって」 どこの時代の人間だって自分でも思った。 でも、一番ショックだったのは。 「だれも…なにも、言ってくれなかった」
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