【あなたを夏に例えてみようか】

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祖母も、父も母も。その場にいた親戚連中全員。その親戚の味方だった。 表立って擁護もしなかったけど、否定もしなかった。 「だから、心のどっかでお父さんもお母さんも、ほんとはわたしに大学、行って欲しくないんじゃないかって」 カズさんは、黙って聞いてた。 じっとこっちを見て、少しだけ考えるように目を伏せていた。 やっと口を開くと、それはいつも以上に穏やかで。 「僕も、それには半分賛成だな」 「…え」 少しだけ、失望した。 きっとカズさんだったら優しい言葉をかけてくれる。 わたしのことを、わかってくれると思ってた。でも、違った。 「な、んで…」 「なんでって言われてもなぁ…まず1つ。大学進学だけが進路じゃない。2つ目、勉強は大人になってからでもできる。3つ、これを機に自立してみる、あるいは家庭に入ってみるのも手」 ポンポンと出てきた案に、わたしは面食らった。 言い終わって、カズさんはお茶をずずっと啜る。 「このパターンに当てはまらないなら、大学にいけばいい。でも、行かないっていう選択を一度したなら、それは土岐ちゃんの中でも何か引っかかるポイントが少なからずはあったはず。それに、土岐ちゃんならきっといいお嫁さんになれるよ。」 ずるい。 一度失望しかけて、意外なところを突いてきて、そして巡り巡って欲しい言葉をくれる。 そっか。いい、お嫁さんか。 「カズさん」 「うん?」 「わたし、もう一回親と話してみる」 「…うん。それが懸命かもね」 と、またカズさんはお茶を啜る。 わたしも少しだけぬるくなったお茶を飲む。 あらためて、わたしはカズさんの姿をまじまじと見る。 男性にしては細身の体。少しだけ撫で付けた白髪混じりの黒髪。 40代(もうすぐアラフィフ)にしては若々しい見た目。 少しだけくたびれたスーツ姿。 ああ。もう。 やっぱり、この人のぜんぶが好き。どこがって聞かれても、答えようがない。 だって好きなんだもの。 「…カズさん」 「んー?」 呼べば、いつもの調子でこっちを見る。決して顔の角度は変えず、目だけこっちに向ける。 …好き。 その一言が言えたらどんなに楽だろう。 でもわたしは、ぎゅっと唇を引き結んだ。 そして予鈴が鳴って、わたしは何も言わないまま慌ただしく準備室を出た。 ーーそれが、わたしがカズさんと会った最後だった。
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