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固まっている他の男子どももチラチラ見ては顔を寄せ合っている。たぶん、下世話な内緒話だ。和泉のスタイルの良さに、驚いているんだろう。制服姿の和泉は少し太めの女子と思われがちだ。背丈の割に肩幅が広くて、首もやや太め。でも、ひとたび水着なれば手足は長く、メリハリのついた体形で、とんでもなくスタイルがいいことが分かるのだ。ほんとは和泉に、タオルで体を隠しておけよ、なんて忠告してやりたい。でも、ひとり軒下に立って空のご機嫌を伺っている和泉を俺も見ていたい。
「壁にタッチしてさ、顔あげても雨降りだと、まだ水のなかにいるみたいで好き。空までプールみたい」
はげしく降る雨でプールサイドのでこぼこにできた小さな水たまりに足を浸して、まるで海の波うちぎわで遊ぶように、ぴちゃびちゃと音を立てさせている。
「いつも室内だからさ。楽しいじゃん、外プール」
くるりと振り返ってにこって笑うと、白くてきれいに並んだ歯がのぞく。
「おう、そうだな。それに今日こそ俺らの実力を見せつけてやろうと思ったのにな」
目を合わせて、二人でフフンと鼻で笑う。
同じ水泳部員としての連帯感がたしかにある。俺は心の中で小さくガッツポーズをする。ふだんは球技や陸上でぱっとしない体育の授業で一目置かれるチャンスなのに、雷雨で授業は中断している。
「樋口のとこはさ、長距離の選手多いよね。千五百とか。三年の桑島さんってオープンウォーターに転向したんだっけ?」
オープンウオーターは海、湖や川といった自然のなかで泳ぐ競技だ。遠泳ともちょっと違う。管理されたプールにはない波や潮流、クラゲとの闘いがある過酷な競技だ。
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