1人が本棚に入れています
本棚に追加
でもそれじゃ駄目だ。和泉はマネージャーじゃない、競技者なんだ。
だから、にっこり笑っているけど、和泉だって上の大会へ行きたかったはずだ。
「千五百メートルとか二十分くらいかかるじゃん、何か考えながら泳ぐ?」
「ま、ペース配分とか……かな」
うんうん、と和泉が大粒の雨が当たって水面がけぶるプールを見つめたまま相づちを打つ。
なんどもなんどもプールを往復しながら、この先どうするんだろう、とか進路のことも考えるし、気になる事とか、その……和泉のこととか……。
あんまり間が開いたせいか、和泉が俺を見て小首をかしげた。
俺は……和泉は高校でも水泳を続けると思っていなかった。
「短距離は、あっという間だから。なんにも考える暇がないからさ。飛び込んで、わーっっと泳いでタッチしたら終わり」
和泉はただでさえ競争の激しい自由形で、さらにエントリーが集中する短距離を泳いでいる。大会へ行くと、和泉はいつも小さな子どもたちの面倒を見ている。一緒にサブプールでアップをとったり、体を冷やさないように頭を拭いてあげたり、オヤツを食べ過ぎないように見ていたり。自分のことは二の次で。いつも笑って人の輪の中にいる。
最初のコメントを投稿しよう!