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和泉の高校最初の夏は終わってしまった。大会を勝ちあがれば、いつまでも『夏シーズン』は終わらない。県大会からブロック大会、全国大会……。それが秋口まで続くのだ。でも、予選を通過できなければ終了なんだ。
「……和泉、大学でも……」
「水泳続けるか、って?」
和泉は手を後ろで組んで、目だけ動かして俺を見た。
「そんな大したことない選手だからね」
そのまま、スイムキャップとゴーグルをなんども持ち替えてしばらく口をつぐんだ。
胸がズキンとした。
「樋口みたいに、学校のフェンスに横断幕が飾られるような結果がだせたらな」
嫌味にしか聞こえてない! ちがうんだ、と言い訳するまえに、すとんっと和泉はしゃがんだ。
「決勝はいつもギリギリだし。出られても真ん中のコースでなんて泳いだことない」
予選レースを勝ち抜いて、決勝へ進めるのは上位九人だけ。俺みたいな長距離なら、予選ナシのタイムレースだけど、短距離にはたいがい予選がある。真ん中のコースは予選タイムの速い選手しか割り当てられない特別な場所だ。
「年下でも速い子は速いし。同じ練習メニューしているんだけどな」
水泳は個人競技だから、勝っても負けても全部自分もち。百分の一まで出されるタイムは一目瞭然、全国にいるライバルと常に争っている。そんなことが、ときどき息苦しくなる。
あーあ、と和泉は派手にため息をついて、それからちらっと俺を見て笑った。
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