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「樋口は、続けるんでしょ?」
うん、とうなずきかけて俺は和泉のとなりに座った。
「て、いうか辞め時がわかんね」
もう水泳が好きなのかもどうかも分からなくなっている。この先も俺はずっと泳ぎ続けるんだろうか? 水泳で大学にはいって、水泳で会社にはいって?
そのあいだ、休むことなくずっと練習用の二十五メートルプールを気が遠くなるほど往復して。まるでハツカネズミの回す車みたいに、同じところだけぐるぐるまわる。海や湖がオープンウオーターなら、屋内プールは閉じた水、クローズウオーターか。その中で練習にあけくれて。コンマ二けたの数字まで気にして、気にして。終わりが見えない。
「ゼイタクだな」
俺の脛に軽くパンチをあてる。体育座りした膝のうえにアゴをのせた和泉が言う。
「あたし好きだな」
え!
ここで、いきなりの告白!? ばくんっと音を立てた胸を思わず押さえる。
お、俺も、と口走りそうになった。
「すーって、すいすいって水の抵抗なんかないみたいに泳ぐ」
……あ……俺の泳ぎのことね……。しゅん、と気持ちがへこんで背中から力が抜けて体が丸まっていく。
「選手じゃなくても泳げる。泳ぐの、好きだし。あたしは水泳、続けるよ」
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