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毎日、毎日、クタクタになるまで練習していても、水泳が好きだといえる真っすぐな和泉が羨ましい。
まだ雨は降っているけど、雲が切れて細い日差しがプールを照らし始めた。
雨粒の丸い波紋がいくつも重なる。まだらにきらめく波のない水面。雷はもう聞こえない。
体がうずうずしてきた。和泉はキャップとゴーグルをかけると、ゴーグル越しにニヤリと笑った。
あ、こいつ!
陸上のスタートみたいに低い姿勢から走り出した和泉を追って、立ち上がりざまゴーグルをつける。ほんの数歩の助走。俺と和泉は並んでプールに飛び込んだ。
衝撃を逃がし、水の勢いを削がないよう腕をかき、ドルフィンキックを二回鋭く打つ。浮上するとそのまま一気に二十五だ。ここで終わりじゃないよな? 体を急回転させてクイックターン。わずかに遅れて和泉がターンするのが見える。
急げ、急げ! 短距離は和泉の得意種目だ。手加減なんかしない。和泉に失礼だ。顔を水につけるたび、視界の端にわずかに見える和泉の位置を確認する。短距離は何も考えない、なんて嘘だ。脳が超高速で体をコントロールする。腕の回転数をあげて、足は細かくビートを刻む。怠くなっていく筋肉に抗いながらゴールを目指す。体が、波のない水を切り開いていく感覚に脳が痺れる。
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