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大谷刑部少輔吉継。この時四十二歳。
病に侵されてから久しく、既に自らの足で立つ事も叶わぬ身となっていた。
故に、輿に乗っての参戦である。
後にハンセン病と呼ばれるそれは、この当時業病と呼ばれ忌み嫌われていた。
前世に犯した罪ゆえ、その身が爛れ落ちていくのだと。
もちろん、そんな事実はない。全ては医療が満足に発達していなかったが故の、理由が分からない恐怖故の、嫌悪である。
じりじりと、神経を灼くような緊張感が両軍を支配していた。
未明の濃霧に紛れ、両軍は布陣を完了させていた。
卯の刻に日が昇った。
じりじりと、互いに牽制し合ってどれ程経ったか。
どうにも徳川の陣営が薄いように思える、との報告を聞いた吉継は考える。
自分の目で確かめようにも、最早、像を映さぬ両目だ。部下の報告を信用する以外に無い。
「まァ、上田で真田が足留めでもしているのだろう。」
そう独り言ちて、ふと真田昌幸にもっと早く言え、と言われた事を思い出す。
苛つく、と吉継は思った。
言われんでも、この戦に計画性と言うものが有るのなら、そうしていたわ。
悪態を吐きたくなった所で、止めた。どのみち今さらだ。
それより今は。
「さて、どうしたものか。」
ゆるり、と瞼を開けてみる。
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