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「…おのれ金吾ォオ、人面獣心の痴れ者がァあ!!」
喉が裂けてもおかしくないほど、吉継は声を張り上げた。いったい、どれくらい振りの事だろうか。
気持ちは分からんでもない。
吉継は思う。確かにヤツは不運だった。
だが。正直、俺はお前などどうでも良いのだ。
いや、本当は、太閤も、秀頼殿も。豊臣だとて、どうでも良いのだ。今更、朽ち逝くだけのこの体では。何もかも、どうでも。
それでも、ここに居るのは。
…全て、佐吉のためだ。
だから、もし、これで。お前の内応で、佐吉の身に何かあろうものなら。
「三年以内に呪い殺してくれるわ!!」
腹の底から声を出すように、唸る。地の底を這うような声。
残された僅かの力で、腹に刃を突き立てた。掻き切るだけの力はもう、無い。
「…佐吉、」
声に成らない声で、吉継は三成を呼んだ。
勝たせてやりたかった。他の誰の手でなく、俺の手で。
島でもなく、真田でもなく。俺の手で。
…佐吉、逃げろよ。今はもう、だめだ。太閤の城かお前の佐和山の城なら、籠城しさえすれば勝機が、
今ほど、この病を憎いと思ったことは無い。
目が見えたら、思い通りに体が動いたら。どんな事をしても、お前を勝たせてやるのに。
戦局の一端でしかない、金吾の事さえままならぬとは。
首筋に鋭い痛みが走る。
急速に薄れていく意識、視界にはもとより光は無い。
涙が一筋、地に落ちた。
…佐吉
その言葉はもう、喉を通り過ぎる事は無かった。
…お前は生きろよ、なァ、他の誰を犠牲にしたって良いから、お前は。
戦の喧騒も、もう吉継の耳には届かない。
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