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開戦前
明け方。
寅の刻もそろそろ終わりを告げようという頃。
雨がまだ降っている。と、思わせるような霧だった。深い霧は体にまとわりついて、空気は水気を帯びている。
昨日の雨が、今も名残惜しげに立ち込めているようだった。この、まとわりついてくるような深い霧に変わっても。
「嫌な空模様だ。」
ぽつり、吉継は呟いた。病に侵された身には、じわりじわりと体力を奪っていくだけのそれを、忌む以外何があろうか。
慶長五年九月十五日。
後の世に、天下分け目の関ヶ原、と呼ばれる事になる、その戦の、朝。
前日の雨は止んだ。代わりに立ち込める濃霧は、何を意味するのだろうか。
まるで自分の心の中のようだ、と吉継は思った。迷いが、未だ燻るこの心の中に似ていると。
この戦を、止める手立ては本当に無かったのだろうか。
そこまで考えて、吉継は微かに首を振った。
…今さらだ。もう既に、この関ヶ原山周辺には豊臣・徳川の両軍が布陣しているのだ。
嫌な霧だ。吉継はため息を吐いた。
事の発端は何だったか。
吉継は記憶を遡る。
太閤の死後、徳川が台頭してきた事か。それとも、三成の人望の無さ、融通の利かなさ故か。
旧友の頑固さに、吉継はまたため息を吐く。
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