また好きになるために

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窓ガラスに幾筋も流れる雨水を、千尋は、ただぼんやりと見た。 雨水の流れは細くなったり、他の流れと合流して太くなったり、まっすぐ落ちていたかと思えば急に方向を変えたり。千尋は、ただただ、ぼんやりと見ていた。 千尋と大輔は、二人が通っていた大学のある新潟で出会った。 その後、大輔が東京で就職することになり、しばらく遠距離恋愛を続けた。大輔が新潟へ帰省したある日、「東京で一緒に暮らそう」と千尋にプロポーズをした。それが2年前である。 廊下に飾られた結婚式の写真の頃は、大輔と一緒に暮らすことも、東京という都会での暮らしも、新鮮な喜びでいっぱいだった。まさに晴れの日だった。 結婚してから、夫婦喧嘩がまったくなかったわけではない。それでも今日のように、千尋が家を飛び出すほどのことはなかった。それだけに今の千尋は、そんな自分自身にも少し動揺していた。 コーヒーショップは雨を逃れる人が押し寄せたせいもあって、混雑し始めた。千尋が東京に出てきて強く感じたのは、この人の多さだった。 東京は、どこに行っても人が多いと幾度となく感じた。 人も多く、交通量も多く、空気が汚れている気がする東京に、無意識のうちに息苦しさを感じる日々だった。自然豊かな土地で生れ育った千尋は、地元の空気がきれいだとも、汚れているだとも、あの頃は考えたこともなかった。むしろ、東京で暮らすようになって、改めて新潟の空気がきれいだったことを実感するようになった。 雨は相変わらず激しく窓ガラスに叩きつけていた。 雨は、東京の塵や埃を地面に落としてくれる。地面に落ちた雨水は、アスファルトに溜まった汚れを下水道へと流す。千尋は、東京の雨をそう感じたことがあった。 大輔が居るリビングの窓ガラスの汚れも、この強い雨が、今頃はきれいに洗い流してくれているのだろう。そんなことを思ったりもした。 晴れの日に、知らず知らずのうちに溜まる汚れ、それらを洗い落とすように、まるで東京の街全体がシャワーを浴びているようで、雨の日を嬉しく感じたこともあった。 窓ガラスの不規則な雨水を見ているうちに、眠くなった千尋はカウンターに顔を伏せて眠ってしまった。
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