また好きになるために

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ハッとして、千尋は目を覚まし、スマートフォンで時間を確認した。20分ほど眠ってしまったようだ。激しい雨が降りやみ、客たちがコーヒーショップを後にしていく。 千尋は、すっかり冷めてしまったコーヒーに口をつけた。 黒い雲はどこかへ消えて、白い雲が流れていった。 やがて、コーヒーショップの窓ガラスを、きれいな夕焼けが覆い始めた。 「わぁ~、きれい」 千尋は、思わず、つぶやいた。 新潟の空の記憶と重ね合わせながら、目の前の澄んだオレンジ色の空を眺めた。 遠くに見える高層ビルをシルエットに、塵や埃が洗い流された空気が清々しく透き通って見える。 『東京も、やっぱり素敵なところね』 こんなにきれいな夕焼けは、あの激しい雨の賜物なのだと千尋は、改めて気づいた。 もしかしたら今日の夫婦喧嘩も、この激しい雨と同じことなのかもしれない。 平穏と思える日常で、気づかないほどの小さなわだかまりやストレスが、知らず知らずのうちにお互いに溜まっていく。くすんだ夕空が、澄んだ夕焼けになるためには、今日のような激しい雨がなければならない。夫婦として、大輔のことをより好きになるためにも、夫婦喧嘩はなくてはならない大切な通過儀礼のようなものなのかもしれない。そういう考えに辿り着くと、すっかり千尋の気持ちも軽くなっていった。 「このまま逃げていても仕方ないわ。さー、思いっきり夫婦喧嘩しよう!」 千尋は、大輔をより好きになるために、腕まくりをして、一歩一歩、家へと向かう道を踏みしめた。 image=511320689.jpg
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