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また好きになるために
「もう、やってらんない!」
千尋の激しい声が、リビングに響き渡った。
大輔は、妻のヒステリーがまた始まったかとソファーに深々と腰を掛けた。その大輔の落ち着き払った様子が、更に千尋の怒りを募らせる。
千尋は玄関に向かい、シューズボックスから適当なスニーカーを取り出し、床に叩きつけた。廊下の壁に飾られた2年前の結婚式の笑顔の写真が、無性に憎らしい。
叩きつけたスニーカーに無理やり脚を突っ込み、玄関の扉を無造作に締めて家を出た。
エレベーターの呼びボタンを押したが、大輔の居る同じフロアから一刻も早く離れたい衝動に押され、非常階段で1階まで降りた。
マンションの玄関を出て、駅の方へと、とりあえず向かう。もちろん、どこかに行くあてがあるわけではない。
財布を持ち出さなかった事を歩きながら後悔した。幸い、スマートフォンだけは握りしめていたので、モバイル決済のできる店なら逃げ込むことができる。
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