秘密の恋

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青空が夕日でオレンジ色に染まる頃、校舎内にチャイムが鳴り響き、玄関先では周囲の賑やかな声があちこち耳に入ってくる クラスの下駄箱の前で、玄関のガラス扉を開けて出ていく大原先輩の後ろ姿を見かけて、思わず視線を左に逸らした 突然、音もなく何かが崩れたようなそんな気がして、胸の苦しさが襲ってきたのだ 大原先輩は同じ中学の新聞部の部長で、いつも困った事があると親身になって悩みを聞いてくれる、とても優しい人だった 同じ高校に通いたくて一年間、受験を頑張ったというのに先週、金曜日の電話で「彼女ができたんだ」と恥ずかしく照れた声を聞いて以来、密かに想い続けたこの恋はあっけなく終わりを告げた ただ先輩の隣にいて楽しくお喋りをしながら、いつかは「好きです」と言って伝えられたらいいなと安易に考えていただけに、すぐに言葉が浮かばなかった たとえ、顔がお互い見えなくても、動揺している自分を見せてはいけないと思い、わざと明るい調子で「おめでとうございます!」と祝い、気持ちを伝えないまま、そっと胸にしまい込んだという苦い記憶がまだ残っている 「あ、梨音!ちょうどよかった、一緒に帰ろうよ」 「美結」 彼女の一声でハッとし、我に返って微笑を浮かべた 美結とは同じクラスで出席番号順が近い為、自然とよく話すようになり、友達になれたけれども、自分が先輩に対して想いを寄せていたなんて事はまだ秘密にしていた
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