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第3話
光というのはとても顔が広くて、さくらは驚かされる事が多々ある。家も近所で同じ小学校に通い、幼なじみとも言える光。
けれど中学生になった辺りから、光は急激に大人になった。光は自分の兄の友達と付き合い始めて、まるでさくらの知らない女の子になってしまった。二人は一緒に私立の中高一貫の女子校に進学して、これから楽しく6年間を過ごす予定だったのに。光のこの変貌に、まだ小学生気分の抜けないさくらはすっかり面食らってしまったのだった。
本当はさくらは、美術部に入りたかった。さくらの大好きな人は、東京で芸大に通っている。少しでも近い時間を持ちたかった。けれど一緒に入部しようと誘った光は、肩をすくめて言ったのだ。
「やめとく。遊ぶ時間、なくなっちゃうもん。それよりさくらも一緒に遊ぼ? 大輝の友達が、さくらを紹介してって。可愛いって、高校生の間でも噂になってるって言ってたよ」
大輝というのは光の兄だ。さくらは当然拒否をする。高校生と遊ぶだなんて、一体何をして遊ぶというのだ。中1のさくらには、それはとんでもなく悪い事のように思えた。大体さくらには、遠い都会に好きな人がいる。
「そう言わずに。みんな優しい、いい人ばっかりだよ。怖い事なんか何にもないから。ね、今日の放課後、ちょっとだけ顔出して」
親友の頼みを、さくらは断れない。連れて行かれるのは、学校近くの繁華街のカラオケボックス。始めて入るこんな場所。すでにそこからは、割れんばかりの音と歌声が漏れ聞こえてくる。
怖い。さくらはすぐにでも回れ右をして帰りたかった。だってあの部屋の中は薄暗い。知らない高校生がたくさんいるのだ。さくらを紹介してと言ったその人が、どんな人なのかも分からない。
いくら光がいるとは言え、光は昔の光ではない。こんな所を知っている光は、もうさくらの知らない女の子になってしまったに違いない――。
「おまたせっ、さくら連れてきたよ。ほらさくら、みんなにごあいさつ!」
曲が終わったのを見計らって、光が重い部屋の扉を勢いよく開ける。光に背中を押されて、その狭い空間によたよたと登場するさくら。
「うっわ、本体、めっちゃかわいーじゃん! おい蓮、例のお前のアイドル……!」
「中1? 見えないね。大人っぽいじゃん。光ちゃん、これはお手柄っ」
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