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「でしょー? さくら、蓮くんの横座ったげてよ。さくらのファンなんだってー」
色めき立つ客席。自慢げな光。高校生は5人以上いる。男の人ばっかり。皆身体が大きくて、まるで大人みたい。泣きそうになるさくらに。
「あーだめ。蓮、可愛い子ってさくらの事だったの? だめー、この子、俺の知り合い」
知っている声が助け舟を出す。さくらは声の主を探す。一番端でコーラを手にして足を組むのは。
「……つばさっ……!」
幼い頃から一緒に過ごした、優しい翼。さくらが直面したこの恐ろしい状況の、救世主がまさか翼だなんて。
さくらは翼に抱きついて泣く。泣きながら、その時実感したのだ。
宗一郎は都会に行ってしまった。さくらにとって頼れる相手は、もう翼しかいないのだと。
そんな事があってしばらくは、さくらは光と距離を置いていた。翼があそこにいてくれたから良かったけれど、いなかったらと思うとさくらは考えるだけで足がすくんだ。やっぱり高校生と遊ぶだなんて、幼いさくらには無理だったのだ。
翼は翼で「あんなとこに中学生が出入りしちゃだめだよ。変な男についてかないようにね。まあ大輝も蓮もいいやつだけど、可愛い女の子が大好きだから。今回は諦めろって言っといたけど、また何か言ってきたら俺に言うんだよ」なんて、妙な立場でさくらを叱った。自分だってあの集団の中にいたくせに。まるで常識のある保護者のように、さくらを諌める翼。
結局は翼もそういう遊びを知っているのだ。一緒に育ってきた翼の意外な一面に、さくらはなぜか傷付いた。そんな頃に椿が死んだ。帰って来た宗一郎に、さくらは叫んだ。
『一人だけ逃げるなんて卑怯よ!』
さくらは孤独だったのだ。大好きな宗一郎に助けて欲しかったのに。
でも行ってしまった宗一郎。さくらは大人になろうと誓う。そして自分からまた光に近づいて――。
少し大人な遊び方を光に教えてもらう。特定の彼氏は作らない。たださくらに会いたいという男に会って、お金を出させて時間を過ごす。次第に相手はお金を持っている、社会人へと変化していく。
時折簡単な拝み屋の仕事が入る。その時に会う翼はやっぱりこう言ってさくらを諌める。
「変なのがいないとも限らないよ。いくら知り合いの紹介でも、すぐに遊びに行っちゃだめだ。相手をよく見て判断しなくちゃ……」
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