第3話

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 そんな事を言う翼とは、あの後も集団の飲み会で一回会った。さくらは翼と同じように、出会いの場を楽しんでいる、だけ。  さくらのそんな暇つぶしは、宗一郎が仕事を辞めて松川に帰ると聞かされるまで、続いた。  水曜日は『おみやげの家久』の定休日である。さくらは毎日バイトに出ても構わないと思っているのに、水曜日は店自体が閉まっているのだから仕方ない。  他には月曜日と金曜日がさくらの休日。火木土日の週4でさくらのシフトは組まれている。  もっと出勤したいのに、宗一郎は勉強をしろと言う。勉強なんかに何の意味があるのか、さくらにはさっぱり分からない。さくらはエスカレーターで行ける短大を出たら、家業を継ぐのだ。卒業が出来る単位さえ確保すれば、後は宗一郎の元で商売の勉強でもしていた方が、よっぽど人生の役に立つ。 「今日は部活、休みなんだって。最近は部活にも休日があるみたい。さくらもバイト休みだし、ちょうど良かった。久しぶりにさくらを自慢できるわ。あー楽しみっ」  昇降口でローファーに履き替えながら、光はそんな事を言う。昔から光は、男にさくらを引き合わせる時に、「さくらを自慢する」と言った。可愛い自分の親友を男達に仲介をするのが、光には楽しくて仕方ないらしい。 「……でも、毎回の事だけど。私、付き合うつもりはないからね。触られるのも嫌だし。そうなったら、本気で逃げるから……」  さくらはいつも通りの予防線を張る。悪い言い訳だと、自分でも分かっている。さくらには光が連れてくる男と付き合うつもりなんて、微塵もない。ただ楽しい時間を作って欲しいだけ。相手の気持ちなんて、考えない。  さくらに会いたいと言う男。その男に会ってやるのだ。きっと楽しい時間になる。振り向いてくれないあの人に、当てつけてやるんだから。 「分かってるって。でも多分、今回は違うよ? 期待して。さくら、報われないじゃん。同年代同士のまっとうな恋愛、しようよ」  さくらは光に言われるまま、繁華街のアーケードを歩く。放課後のこの時間、街は学生達で溢れる。  さくらの後ろを歩きながら、可愛いワンピースに身を包んだ蜜柑が、不安そうな表情を浮かべている。
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