第1話

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 教えてくれたのは翼だった。突然のラインで、『そう言えば知ってる?』なんて。 『何を?』と返したさくらに、翼はこんな風に送ってくる。 『宗ちゃんと百合ちゃん、デートしたんだって。どこ行ったかは聞いてないけど、楽しかったって百合ちゃんにこにこだったよー』  ……なんて事。さくらは固まる。 『いつ? 二人で行ったの? どっちが誘ったの?』  速攻で送ったさくらのメッセージには、しばらく返事が返らない。じりじりしながら待つさくらのスマホが、突如着信を受ける。着信音に驚きながらも、さくらは慌ててスマホを手にする。 『あ、さくらー? 俺。気になってるみたいだから、百合ちゃんに電話して訊いたげたよー。……知りたい? 詳細』  明らかに面白がっている翼の声。さくらは前のめりになってスマホを握りしめる。 「知りたいっ。どこで何やったのっ。あの女、まさか、まさか……」 『あはははは。何やったって。さくらは面白いなあ。予想通りの反応だ。二人はねえ、結構遠出したみたいだよ?』 「遠出っ!? いつ! どこ行ったの!?」 『一週間ぐらい前だって。百合ちゃんの実家のあたり。大隈町だから、ドライブデートだね。どっちが運転したのかは知らないけど』 「ドっ、ドライブぅ!? 実家!? なんで実家? まさか、まさかもうそんな話に……」  慌てるさくら。横で蜜柑も手に汗を握っている。電話の向こうでしばらく翼は沈黙してから。 『……っ、あはははは! ごめんごめん。そんなにビビると思わなかった。まあドライブはホントだけど』  翼はやっと真相を口にする。結局の所、宗一郎と百合子は大隈町にある石屋寺を訪れたのだという。88ヶ所巡りの中でもかなりの難所と言われる、山深くにある古刹である。  藤屋旅館が新しく出した旅館の女将である百合子は、この地域特有のお遍路文化を学び直している最中なのだと翼は言った。客に訊かれた時に、答えられない質問があってはいけない。今県では、このお遍路文化を世界遺産にすべく活動をしている。  だから遠く、女一人ではなかなか足が向かない石屋寺に、宗一郎を誘ったという事らしい。石屋寺は車で乗りつけられるような寺ではない。駐車場から30分近く登山をしてやっと辿り着く、お遍路泣かせの札所なのだ。 「……ふーん。ババくさ。じゃ、あのオバサンがお兄ちゃんを誘ったのね? お兄ちゃんから誘ったって訳じゃ……」
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