第2話

1/4

11人が本棚に入れています
本棚に追加
/42ページ

第2話

「お兄ちゃん、これっ。これ、蜜柑に着せてあげてほしいの! 可愛いでしょ? 昔私が着てたやつ!」  『おみやげの家久』で、今日のさくらは開店準備を教わった。鍵を開けて掃除をして。それからレジを開設する。細々とした作業だが、2度もやれば覚えてしまうような内容だった。さくらは勉強は嫌いだが、頭がいい。単純作業ならあっという間に覚えてしまう。  ひと通り店を開けて、9時の開店までの間にさくらは持参したワンピースを取り出す。宗一郎は、さくらとは段違いの強い霊力を持っている。以前宗一郎は式神である牡丹に、宗一郎のシャツを着せていた。ならばきっとさくらの式神である蜜柑にも、この可愛いワンピースを着せる事が出来るに違いない。 「……懐かしいな。よく着てた。蜜柑に着せたら、もうこの世のものじゃなくなる。それでもいいのか?」  宗一郎は優しい表情で微笑む。宗一郎は今日も黒いTシャツにジーンズ。さくらのTシャツは白だけれど、二人は同じエプロンをつけてちょっと見ればペアルック。  今この店で、さくらは宗一郎と二人きり。見上げる背の高い宗一郎の顔はいつも通りにとても綺麗で、さくらは返事もせずに見入る。ああ、幸せ。  バイトに志願して良かった。まさかこんなに近くで、二人っきりになれるなんて……。 「お姉ちゃん、やっぱりいいよっ。私なんかにそんな可愛い服、似合わない! 私なんか、このきったない破れかけた臭い着物がお似合いなのよーっ」  沈黙を勘違いして蜜柑が叫ぶ。そうか……蜜柑がいた。二人っきりではなかったのだ。さくらは慌てて蜜柑を振り返る。 「ち、違うのよ蜜柑っ。服が惜しい訳じゃないの。ちょっと、ちょっと舞い上がってただけで……」 「うん、蜜柑、泣くな。まずは、こうしようか」  宗一郎が、その手のひらを蜜柑の小さな頬にかざす。ほとんど、触れるように。蜜柑が衝撃に止まる。涙がつたうその頬に金色の光が降り注ぐ。 「……うそ」  さくらは息を飲む。蜜柑もその感触に言葉を失う。蜜柑の、にきびとその痕で凹凸になった肌が。   「つるつる。蜜柑、お肌、つるつるよ。やだ、お兄ちゃん。こんな事まで出来るの? お兄ちゃんたら」
/42ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加