第2話

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 鏡を見た訳でもないのに、蜜柑がきゃああ、と声を上げる。自殺する程嫌だった、自分の醜い肌。  確実にその様が変わった事が、蜜柑にはすぐに分かった。400年近く縛られた呪縛から解き放ってくれた、この人。まさか、まさかこんな事まで出来るなんて……。 「ありがとうっ! お兄さん、ありがとう! 私、私、本当に嬉しい……っ!」  宗一郎は笑って、また小さく呪文を唱える。それで綺麗な肌になった蜜柑の身体を、あのワンピースが可愛らしく包んで。 「最後に、おまけ」  大きな手が蜜柑の頭にかざされる。くしゃくしゃだった蜜柑のまとめ髪が、それで一瞬で整う。 「……お兄ちゃんっ……」  それを見て、蜜柑だけでなくさくらも泣いてしまう。蜜柑の整えられた髪型は。  さくらが宗一郎に会う時に母親にしてもらっていた、お気に入りの、あの可愛らしい編み込み。  結局さくらは宗一郎のそういう所が好きなのだと実感する。優しくて思いやりがあって、なのに普段はそれを全然見せない。綺麗な顔ですましていて、冷たそうに見えるのにたまにこんな事をする。  だからさくらは宗一郎をもっと好きになる。あの後恋敵であるあの女が店に顔を出したけれど。 「あら、いらっしゃいませ女将さん。お寺巡りをなさってるとか。渋いご趣味でらっしゃいますね。若い私にはこれっぽっちも理解出来ません」  にっこりと笑ってやる。すると百合子も、若干の硬い笑顔でさくらに返す。 「まあさくらちゃん。このお店でアルバイトを始めたのね。お寺は素敵ですよ? 遠くの札所にお連れしても、宗一郎さんは退屈なさらなかったようですから」  ……言ってくれるじゃない。さくらは手を緩めない。 「『若い私』にはまだ難しい分野です。お兄ちゃんが老け込まないように、新しい世界も教えてあげなくちゃ。25で線香臭いなんて、痛々しい以外のナニモノでもありませんもの」 「あらさくらちゃん、優しいのね。25はもう大人よ? 今どきの騒がしい風潮なんて、大人の耳にはなかなか馴染まないわ。さくらちゃんは『若い』から、大人の世界は理解し難いかも知れないわねえ」  にっこり、綺麗に笑う百合子。えーと、と宗一郎が後ろから声をかける。
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