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「だからよ!」
光は痛い所を突く。さくらは声を張り上げる。
「あたしは牡丹が見えるけど、あの女は見えない。あたしは学校があって放課後しか店に行けないけど、あの女はお兄ちゃんのそばで働いている。だから情報交換し合いましょうって事よ! お兄ちゃんが牡丹に手を出さないように、密に連携を取りましょうって……」
「……あらあら……」
呆れたように肩をすくめる光。さくらはいらっとして、「何っ!?」と鋭く反応する。
「さくら、あんたもう負けた気になってるじゃない。『お兄ちゃんが牡丹に手を出さないように』って。お兄ちゃん、信用してないのね。て言うか、全然視界に入れてもらってないって自覚があるんだ。さくらとその牡丹ってお化けは、同じフィールドにすら乗ってない……」
「……そうよっ! あたしなんか、全然お兄ちゃんに相手にされてないんだから! あたしなんか、あのばあちゃんが作ったお化けにすら敵わない……」
言っていて悲しくなってきて、さくらは口をつぐんだ。となりで可愛いワンピースに身を包んだ蜜柑も、なんとも言えない表情を浮かべている。
「だ、か、ら、さくら」
予令のチャイムが鳴る。光はいたずらっぽく笑う。
「知り合いに頼まれたのよ。城東高のバスケ部に、かっこいいのがいてね。そのイケメンが、さくらの事紹介して欲しがってるって。お兄ちゃん一筋もいいけど、さくらモテるんだからもちょっと視界広げていこうよ。今日バイト休みでしょ? 久々に会ってみない?」
「バ……バスケ部?」
「そ、バスケ部。あたしも実際に知ってるけど、そーとーかっこいいよ。さくらのお兄ちゃんもイケメンだけど、細っこいじゃん。もっと男らしい感じ。最近よその空気吸ってないでしょ? 高校生だから割り勘だけど。ね、会ってみよ?」
光は度々こういう話を持ってくる。少し前には冒険がてら出かけても行ったけれど、最近のさくらは「興味ないわ」と一蹴するこういう話題。
でも、今日はなぜだか違って聞こえる。きらきらした目でこちらを見つめてくる光に。
「……うん、会ってみようかな」
思わず言ってしまう。
そんな自分に、さくらは驚く。
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