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南瓜は最初は小さな実がいくつかなっているだけだったが,すぐに大きな南瓜がいくつもできた。
「随分と早なりだが,やけに立派な南瓜だな……」
この頃になると,畑の隅にきちんと柵をつくり,盗まれないように農作物であることを必要以上にアピールしたが,農作業をしていても南瓜の立派さに目を奪われることがあった。
「どれ,ひとつ喰ってみっか……」
ずっしりと重い南瓜を二つ採ると,使い古された風呂敷に包み一つを武次のところへ届けた。
「よぉ……武次。うちの畑で採れた南瓜だ。どっかから種が飛んできたんだろうけど,立派なんでお裾分けだ」
武次は南瓜を嬉しそうに受け取ると,お礼に新聞紙に包んだ鮎の干物を渡した。
「悪いな,こんな立派な南瓜をいただいて。さっそく煮物にでもするよ」
「やけに重いけど,まだ割ってないから中身の出来は知らんからな。なんせ早なりだ」
「立派な南瓜だ。問題ないだろ」
「そうだな。ところで,こいつをあてに今夜どうだ?」
智が手でコップを持つ仕草をすると,武次も嬉しそうにうなずいた。
「そうだな。じゃあ,今夜うちで呑むか。それまでに南瓜を炊いておくよ」
「じゃあ,日が暮れたら来るんで,よろしくな」
「ああ,わかった」
智は新聞紙に包まれた鮎の干物を持って,武次の家をあとにした。
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