嫉狐南瓜《ねこかぼちゃ》

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 すっかり日が暮れ,蝉の鳴き声も一段落したころ,智が一升瓶を片手にやってきた。 「おう,待たせたな」 「いや,ちょうど南瓜がいい塩梅で炊きあがったところだ」  南瓜の甘い匂いが家の中に拡がり,贅沢な気持ちになった。 「期成同盟会の会合でパクってきた酒だ。役人相手に用意したやつだから美味いぞ。本物の日本酒だからな」 「バレたらマズイやつだろ,大丈夫か?」 「まったく問題ない。みんな,とっくに呑み干したと思ってるよ」  一升瓶を床に置くと,あぐらをかいて座った。 「なあ,今度,足尾銅山精錬所移転期成同盟会ってのが結成されるんだが,武次も参加しろよ。精錬所をよそに移そうって話になってんだ」 「そうだな……。だけど,うちのバス会社は古河鉱業の仕事がなくなると潰れちまうからなぁ……」 「そうか。そいつは難しい問題だな。じゃあ,鉱害根絶同盟会なら,お前の会社のもんも何人か入ってるから考えといてくれ」 「ああ。難しい話はなしにして,とりあえず南瓜を喰おう。美味そうに炊けたから」  武次の炊いた南瓜はこれまで食べたことがないような甘味があり,日本酒にはちょっと甘すぎるくらいだった。  普段口にすることのない甘さが贅沢に感じ,二人ですべて食べてしまった。 「この南瓜,美味いな! それにしても智,そんなに喰って,お前の胃袋は大丈夫なんか? 医者に喰い過ぎんなって言われてるだろ?」  武次が空になった皿を見て,満足そうにした。 「ああ,こんな美味いもん我慢できん。まだ畑になってるから,また持ってきてやるよ」 「お裾分けじゃなく,お福分けだな」 「まったくだ」  そのまま二人はゆっくりと酒を楽しんだ。
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