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一九四六年七月,大間々村の畑に大量の南瓜がなった。
むせ返るような甘い香りのたつ南瓜がそれぞれの家庭の夕飯にあがり,村中が南瓜の甘い香りで包まれるほどだった。
ほどなくして,多くの村人が原因不明の奇病を発症した。
全身の毛が抜け落ち,ちょっと擦りむいただけでも出血が止まらず,なんとか出血を止めてもすぐに傷口が化膿した。
全身の関節が痛み,爪は剥がれ,歯が抜け落ち,国が伝染病を疑うほどだった。村人は家から出ることもできず,日に日に墓場の空きがなくなっていった。
どこの畑仕事も手入れがされず,畑なのか雑木林なのかわからなくなっていった。
それでも,すっかり荒れ果てた畑にはたくさんの南瓜がなっていた。
智は美味そうな南瓜と採ると,武次の家に持って行った。
「武次,具合はどうだ? 見舞いに来たぞ」
「まったく,こうも身体が痛くて動けないとはなぁ……。流行病か銅山の毒なのか」
「ほれ,お前んとこの畑で採ってきた南瓜だ。これを喰って元気出せ」
「悪いな……。で,うちの畑,いまどうなってる?」
「お前んとこだけじゃないが,どこも荒れ放題だ」
「そうか。はやく元気になって畑を耕さなねぇとなぁ……」
「おう……。しっかり喰って元気になれ!」
「そうだな。動けるようになったら,キャベツ,タマネギ,ジャガイモを植えねぇと……あと白菜だな……」
「そうだな。しっかり植えて稼がないとな!」
武次は微笑んだが,すでにすべての歯は抜け落ち,わずかに開いた口からは真っ黒な血が垂れていた。
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