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「なんでだよお、早すぎるよお」
男の声で咽び泣く女達の野太い声が部屋に響き渡る。薄暗がりから抜け出した珍獣達からは、既に幻惑が剥がれ落ちている。
カーテンの隙間から射し込むするどい光が、徹夜明けの身体には酷く堪えた。
よくあるマンションの一室。夏も老い込んだ秋口に、誰からも愛された〝彼女〟は、深い孤独の中で眠るように息を引き取った。闇夜の中でその美しさに華を添えていた紫色のアイシャドウも、零れ落ちる陽光の下では何処か毒々しい。
息苦しさに気圧されてベストのボタンを弾いてはみたが、然程意味はなさなかった。
恋の蜜は星の数程舐めるもの。けれど愛だと感じたならば、貴方の瞳はその人だけに捧げなさい────。
シャンソン歌手であり、Club Gardenの星、園枝 椿。本名山口 昭二郎が俺にくれたものはたくさんあるけれど、この世で一番大切なものを手放した俺にくれたその言葉は、今でも熱く胸に刻まれている。
俺の、大切な人だった────。
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