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「紳士淑女の皆々様、ようこそ、楽園に最も近いこのお庭へ────」
いつも通りの前口上。黒い燕尾服に身を包んだ春海さんが深々と頭を下げると、上品な拍手がそれに応えた。
「今宵お客様にお見せ致しますものは、この世のものとは思えない極上のショーの数々。先ずは当クラブの可愛い珍獣達をお見せ致しましょう。皆お客様を歓迎しておりますよ。──そうそう、決してお手は触れぬよう。噛み付かれてしまいますからね」
春海さんの進行で、ショーは鮮やかに進む。その間俺たちはケンタの組んだ配膳スケジュールに合わせて迅速に料理を運び、皿を下げる。
そうこうしているうちにショーはフィナーレを迎え、終わる頃にはお客様はデザートもほぼ食べ終わっている。ショーだけを見るお客様をお見送りすれば、ほんの少し休憩が出来ると気を緩めた時。春海さんは突然鳴り響く拍手を止めた。
「ご報告が遅くなり誠に申し訳ありませんが、今宵はこのClub Gardenにとって特別な日で御座います。お時間の許す方はもう少しだけ、お付き合い下さいませ」
再びお客様から拍手が起こる。
「え、なに?」
今日はリハーサルを見なかったから、この後何が起こるかまるで分からず、俺は隣でボーイの癖に拍手をしているケンタに問い掛ける。しかしケンタは素知らぬ顔で、何故か俺を肩でぐいぐい押してくる。
「何だよ、やめろよ」
押し返そうにも明らかにケンタの方がガタイがいい。されるがまま、どんどんと押されて行く。
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