高校二年生、初夏

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 通い慣れた紺の家は、俺の家から歩いて三十秒。生まれた時から寸分変わらぬこの距離もまた、俺の優越に華を添えている。  美しかった庭園の手入れは最近サボりがちのようで、どこを見ても荒れ果て、白いアーチに巻き付いた蔦は、辛うじて夏の陽光に形を成している。昔はまるで英国のような、洒落た門だったのに。今や成れの果てとなっている。  そんな俺の落胆が顔に出ていたのか、錆びた悲鳴を上げる門を押しながら、紺は何処か投げやりに笑った。 「これでもこの辺とか、俺がやっているんだ」  確かにその視線の先は、少しだけ手が加えられている。だが植物の生命力に、にわかは通じないようだ。 「でも、少しは良くなったんだろう?」  取り繕うようにそう問う俺を見るともなしに、紺はまた小さく微笑んだ。 「うん、何とかね。仕事も少しづつだけれど再開してる」  平気な風を装って、でも俺には分かる。  親父さんが心を病んで、紺もまた、心に癒えぬ深い傷を負ったあの日から、まだ立ち直れてはいない事。  玄関に並べられた新品のハイヒールを目の当たりにし、俺は情けないが、何も声を掛けることが出来なかった。紺の痛みも、親父さんの絶望も、想像することしか出来ないから。どんな言葉も、白々しく聞こえてしまう気がして。
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