高校二年生、初夏

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 それからはお互いいつも通り。紺は部屋に入ると直ぐ、最近買ったスニーカーを、嬉しそうに見せてくれた。欲しかったとずっと言っていた、紺色のシンプルなもの。  俺は適当な相槌を打ちながら、しかし先程呑み込んだ不満を、吐き出さずにはいられなくなっていた。楽し気な紺の目の前で難しい顔をしていたんだ。気付かれない筈はない。  紺は暫くすると、耐え切れなくなったように細い眉尻を下げた。 「ベニ、どうしたの?調子悪い?」  本気で心配し、本気で俺を想うその瞳は真っ直ぐで、そこには俺しか映らない。また湧き出た優越を噛み締めながら、俺は努めて不機嫌を装った。 「さっきのさ、麗子だよな。フったの?」 「麗子?」  当然俺たちの間でのあだ名など知るはずもなく、紺は不思議そうに首を傾げる。 「鈴木。二年の鈴木優子」 「ああ、鈴木さんか!え、麗子って何?」  望んだ答えが直ぐに返って来なかった事が、俺の中の何かを刺激した。 「いや良いからさ、どうしたんだよ」 「麗子って、髪の毛くるんくるんだから?確かに、麗子っぽい!」  紺は触れて欲しくない事を聞かれると、こうして必ず無理矢理に焦点をズラそうとする癖がある。だが何時もフったのか付き合ったのか聞く時は、こんな風にはぐらかしたりはしない。何故今日に限って。その疑念が、俺の苛立ちを一層に煽る。 「だから、フったのかよ!」  思わず声を荒げた俺に向け少し困ったように微笑んだ後、紺はゆっくりと瞼を伏せた。長い睫毛が頬に落とす影が、不思議な悲壮感を漂わせる。 「……うん、ちゃんと断った」 「なんて?」  俺の詰問を、紺は観念したような笑みで迎えた。 「好きな人がいる、ってね」  心臓がおおきく脈打つ音が、全身に低く轟いた。  それは、きっと嘘だろう。いや、絶対に嘘だ。紺が誰かに恋をしていて、俺が知らない筈がない。そう自分を納得させ、俺は無理矢理にでも気丈に振る舞って見せる。 「そんな嘘吐いて良いのかよ。女の妄想力は凄いんだぞ?」  分かっているのかいないのか、紺は声を上げて笑った。俺はその無邪気な笑顔に、心底ホッとしていた。
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