高校二年生、盛夏

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 俺たちの関係が崩壊へと向かい進行を始めたのは、本格的な夏が大手を振って俺たちの頭上を正に闊歩している頃だった。  夏休み。それは言わずもがな、高校三年生にとってみれば大切な時期だ。  遊びほうけている場合ではないし、かといって最後の高校生活を机に噛り付いて棒に振るのも惜しい。そんなジレンマに誰もが心を病む季節。 「それじゃあ羽目を外し過ぎないように!」  終業式も終わり、終礼も終えた教室は、普段とはまた別の熱気で蒸れていた。担任の声も何処吹く風。誰もがこの夏の予定を早口で確認し合っては、互いに空々しい挨拶を交わして去ってゆく。俺もまた、何も気付かずその一員である事に違いはないのだが。 「じゃあ来週な!時間はまた連絡するわ!」  早速そんな声と共に、俺の肩が叩かれる。 「ベニ!お前忘れんなよ!」 「分かってるって!」  乱暴な俺の受け答えに満足したように、取り巻いていた仲間たちは駆け出した。眩い程に輝いている、夏休みと言う時間に向かって。  その背中をぼんやりと見送る俺に、再び声を掛ける者があった。 「まだ帰らないの?」  相変わらず無表情でそう問うて来たのは、雅だった。 「ああ、ちょっと予定あってさ」 「今日も紺ちゃん先輩と?」 「そうそう」  素直にそう答えた俺に、雅は微かな嫌悪感を覗かせたように見える。だが元々苦虫を潰したか、機械みたいな均一な表情しかしない奴だったから、俺は特に気にもしなかった。 「ふうん。じゃあ、来週ね」  雅もまた、俺を残して教室を去って行った。それもぼんやりと見送ってから、俺も重い腰を上げた。  実を言うと、俺は今日、特に面識もない教師から、突然の呼び出しを受けた。生徒指導でもなく、本当にあまり関わった事のない人だ。だがそんな事よりも、また紺を待たせてしまうことが、俺を苛立たせていた。
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