高校二年生、初夏

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 春うららかに、門出を祝う。桜が咲いて、桜が散って、雨が降って、雨が止んで。  あれは、巡る季節が立ち止まって見えた、梅雨が明けてすぐ、七月頭の事だった。  柴高等学校二年A組一部の生徒は、只今おかしな補習授業の真っ最中。物珍しい熱血生物教諭の傍で、何で炎天下のグラウンドで補習なんて、と、俺達補習組の五人は揃って仏頂面をぶら下げていた。彼が熱弁する蟻の生態にそこまで興味もないし、そもそも興味のある奴は補習なんて受けないものだ。  それにしても暑い。幾ら少し風変わりをウリにしている私立高校と言えど、こんな変な補習のお陰で倒れたら大問題になるんじゃないか。  そんな事を考え半ば白眼になっていた俺の頭に、突然先程まで巣に突っ込まれていた棒っ切れが打ち付けられた。 「コラ、百瀬紅(ももせ こう)!聞いてんのか!」  この野郎、蟻が髪の毛に入ったらどうするんだ。そう詰め寄ろうかとも思ったが、そんな事を言って留年させられたら困る。取り敢えず、ヘラヘラと笑って見せた。 「聞いてる聞いてる!」 「大体お前、名前だけ書いて寝る奴があるか!」 「いや、本当すいません!」  適当にでも素直に謝った事で難を逃れ、三角形に吊り上げられていた瞳は再び灰色の校庭に落とされた。全く、自業自得とは言え面倒臭い。  目線から外れたのをいい事に、あからさまにふて腐れた俺を、補習を逃れ丁度帰路に着く仲間達が、満面の笑みで冷やかしてくれた。 「ベニ、留年したらパーっとやろうぜ!」 「いらねーよバカ!するかバカ!」  俺の反応に満足し騒ぎながら遠退いて行く背中に舌打ちを投げ掛け、俺はまたぼんやりとふて腐れた。早く終われ。それ以外、何も頭には浮かんで来ない。
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