終章

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 気の早い桜が安定しない気温に騙されて疎らに花を咲かせる三月十五日。柴高等学校は、卒業式を迎えた。  涙や、笑顔。喜びや悲しみの全てをごった返したような複雑な感情が渦巻く中、誰もがこの学び舎での三年を振り返り、そしてこの先の人生が華やかであるように願った。 「卒業かあ、なんか実感ないなあ」  そう言いながらもどこか清々しい笑みを浮かべ、紺は間も無く夜が訪れる空を仰いだ。  予想通り同級生、後輩問わず記念写真や告白待ちで長蛇の列が出来、優しい紺はその全てに真摯に答えていたものだから、学校を出る頃には既にこんな時間になっていた。先に家に帰っても良かったのだが、こうして一緒に下校するのも今日で最後だから、困る紺をながめながら俺も黙って待っていた。  紺はこれから働きに出て、俺は多分このまま適当に高校生活を過ごし、適当な大学に行く。誕生日は3日しか変わらないのに、学年が違えばこれ程に生きる道が違う。これまでも小学校、中学校と先に卒業して行ったけれど、なんだか比べ物にならない程この数日が遠く感じた。 「ベニと制服で会うのも、これで最後だね」  紺も同じ事を思っていたのか、そう言うと寂しそうに視線を逸らし歩き出す。  前をゆく背中。身長の割に華奢に見えるのは、撫で肩なうえに着痩せをするからだろうか。道を歩けば誰もが振り返り、言葉を交わした誰もを虜にする自慢の親友。引っ込み思案で、照れ屋で、優しくて、意外と頑固で────。変わる事が無いと信じていたこの関係。それが少しづつ、確かに変わり始めたように感じるのは、大人に近付いているからなのだろうか。
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