高校二年生、初夏

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 そろそろ本気で熱中症を心配し出した時、不意に汗と共に文句を垂れ流していた隣の女子が上擦った声を上げた。 「あ、まただ」 「今年度早くも六人目ー!」  それに続いた女子生徒が、嬉々として指を折る。視線を向けるまでもなく何のことか分かっていた俺も、彼女達の視線を追い掛け、グラウンドを突っ切る生徒を流し見た。  部活動に燃える群衆を擦り抜けるふたりは、遠目にも輝いて見えた。すらりと伸びた長身の男子生徒。気持ち後ろを歩く女子生徒もまた、細身で、長い髪が動く度に嫋やかな曲線美を描いている。 「うわっ、あれ麗子じゃん」  女子生徒の声が、気持ち低く彼女の名を囁いた。それには俺も驚いて、思わず声を漏らしてしまった。 「マジか。麗子まで落ちたか」  しかし体育館の裏手に向かう彼女の名前は、実際には麗子ではない。  二年B組の鈴木優子。お淑やかで品格があり、少し大人びた美人。いつもくるんくるんに髪を巻いているから、令嬢っぽいと言う理由でそんなあだ名が付いた。それは勿論、俺たちの間でだけの話し。  麗子は男なら一回は付き合ってみたいし、なんなら一言でも良いから喋ってみたいと思うような美少女だ。  それが、まさか──。  彼女を連れて歩いているように見える男子生徒は、三年A組の椎名紺(しいな こん)。誰もが認める美男子で、おまけに性格は普通に良い。かなり人見知りだがそれもまた良いスパイスとなり、その人気は男女を問わず絶大なものである。  そして何を隠そう、たった数日の差で学年が離れた、生まれた時からの幼馴染。  紺は昔から良くモテる。黙っていれば近付き辛い高嶺の花だが、人見知りの癖に愛想笑いが上手すぎて、勘違いされる事が多いのだ。こんな風に呼び出されることも日常茶飯事で、撃沈した女は数知れず。紺は参ってしまっていたが、男だって数知れず。  そんな学園のプリンスとマドンナのツーショット。これは何かが芽生えても可笑しくはないだろう。
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