高校二年生、初夏

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 今度突っ込んで聞いてみようかと考えている俺の横で突然、雅は興味なさ気に呟いた。 「それか、ホモか」  ……何だって? 「あー、一番身近な人が好きとか言う、王道的な?」  驚く俺と相変わらず仏頂面の雅を置いて、近藤は勝手に相手を俺に得意の妄想を垂れ流し始める。 「その場合、やっぱ紺ちゃん先輩が受けかなあ?」 「何それ」 「あのふんわりしてるのは見せかけで、実はドエスとかね。出来の悪い後輩を性的指導!みたいな感じで!」  おぞましい会話で一人盛り上がる近藤を、俺は慌てて止めに入った。 「バカか!気色悪い!」  思わず噴き出た冷や汗が背中を伝う。  一体どんな思考回路があれば俺と紺が付き合う事になるんだ。全く理解不能だ。俺だって、アホなりに今年上の彼女もいるし、幸せにやっているんだ。 「あ、帰って来た」  その雅の声に視線を向けると、体育館裏から帰って来た紺は、直ぐに俺の姿を見付け小さく笑って手を振った。まるで今告白されて来たとは思えない、清々しい笑顔だった。慣れっこって訳か。生意気な。 「出たー!ベニだけ特別扱いー!」  近藤のしつこい冷やかしを宥める隙も与えず、雅の少し低い声が俺にまた冷水を被せた。 「ベニ、麗子があんたの事睨んでるよ」  言葉通り、紺から少し遅れてグラウンドに戻って来た麗子は、涙を拭いながら、確かに俺を睨み付けていた。何なんだ、このホラーは。いや、良くある事なのだが、全くの逆怨みは参ってしまう。  俺は男で、紺のただの親友で、それだけなのに、紺の美しさはこんな風に人の心を乱してしまう。全く罪な男だよ。だからって紺の親友やめようとか、距離を取ろうとか、考えた事もないし、きっとこの先何があっても思わない。 「紺ちゃん先輩ー!」  無邪気な近藤が大きく手を振ると、紺は困ったように手を振り返した。俺にするものとは、何処か絶対的に違う振り方で。  あいつに一番近く存在出来る自分に、俺は多少どころではなく、優越の意識を持っていたんだろう。  心の中でほくそ笑む俺の頭を、突然またしても蟻の巣ほじる用棒っ切れが刺した。 「……お前ら、補習受けている自覚はあるか?」  その日の補習が長引いた事は言うまでもない。
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