高校二年生、初夏

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 結局補習が終わったのが四時をとうに回った頃で、俺は慌てて教室に戻り、帰り支度を始めた。配られたプリントや教科書を適当に鞄に放り込みながら、片手でメールを送る。  今日は紺と新しく公開される映画を観に行くはずだったのだ。もう完全に時間を過ぎてしまっている。あの後直ぐグラウンドから校舎に消えた紺は、何処かでぼんやり暇を潰しながら待っていた筈だ。  人を待たせるのは嫌いだ。待たされる事が、嫌いだから。  しかし一刻も早く大慌てで教室を飛び出そうと急く俺を、遅れて教室に戻って来た雅が呼び止めた。 「ねえ、ベニ。あんた気を付けなさいよ?」 「はあ!?」  余りに慌てすぎて思わず大声を出してしまった。雅は心底迷惑そうに眉を顰め、それでも俺を行かせてはくれないようだ。 「麗子よ。バカだから気付かなかっただろうけど、あんな顔で人の事睨める人間そうそういないよ」  バカだからは余計だ。絶対余計だ。 「さっきのは冗談だけど、紺ちゃん先輩とあんたが異常に仲良いの、僻んでる奴だっているのは事実よ?」 「どいつもこいつも想像力が豊かすぎるんだよ!」  そう吐き捨てて、俺は一目散に教室を飛び出した。丁度、紺から校門で待ってるとのメールも届いた所だった。  しかし、異常にって何だよ。俺たちはただの幼馴染で、たまたま数日の差で学年が違っただけじゃないか。何より、先輩と後輩、幼馴染の大親友、そんな言葉で言い表せない位に、俺と紺はもっと深い所で繋がっているんだ。  紺といると、こう言う不条理をよく突き付けられる。お互いがお互いを好きだからこそ側にいる自然な友情すら、他人の妬みに晒されてしまう。けれどやはり、離れるなんて考えられない。  記憶の奥底、最後に見たあいつの泣き顔が、酷く胸を締め上げた。
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