第一章 チューリップ 花言葉 perfect lover (理想の恋人) 

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第一章 チューリップ 花言葉 perfect lover (理想の恋人) 

     ようやく暖かくなった三月の終わり。桜が見頃を迎えたというのに、夕方を過ぎると外はまだ肌を突き刺すような冬の空気に入れ替わる。 「薄着してきちゃった」  佐伯美月(さえき みつき)はスタンダードなベージュのトレンチコートの襟を引き寄せた。30歳を過ぎて腰周りや背中のお肉が気になりだしてからは、丈の長いコートばかりを選ぶようになった。 「これじゃ、しばらくお預けね」  ありがたいことに今年は丈が長いのがトレンドで、美月も紺色のコーディガンを購入したばかりだった。ぶつぶつ言いながらコートの襟のボタンを留めると、会社脇に停めている自転車に跨る。そして胸下ほどの髪をふわりとなびかせて、会社から自転車で二十分ほどの自宅に向かった。     
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