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その美月を振り返ることなく、上条は独り言のように呟いた。
「要らなかったら、売って好きなものでも買えばいいのに」
「そんな・・・要らないだなんて」
困惑する美月をよそに、上条は続けた。
「いいバッグぐらいは買えると思うよ」
そう言いながら、微笑んで上条は美月の方に振り向いた。
「本気でそう思うんですか?」
そこには上条とは正反対に、ムッとした表情の美月がいる。しかし上条は少し驚いた顔をした後で、また柔らかな微笑みを浮かべた。
「もちろん。その価値は人それぞれだもんね。特に絵とか・・・そういうものは人が勝手に価値を決める」
そう言って上条は、またたんぽぽを見つめた。
「そうだけど・・・」
あまりの上条の悲し気な表情に美月の表情も緩む。そして、また独り言のように上条は呟いた。
「ま、そんな中で俺は生かしてもらってるんだけどね」
美月はその表情に耐えきれずに、慌てて口を開いた。
「あたし上条さんの絵、好きです。だから小さな絵でもいいから、いつか買えたらいいなって思ってます」
「それならあげるって・・・」
そう言いながら、上条は美月の方に向いて前かがみになった。正面を向かれて美月は少しひるんだが、一瞬頷いてから上条を真っ直ぐに見据えた。
「そうじゃないんです。もちろん、そんなに高いものはもらえないっていうのもあるんだけど・・・。でも、ましてや頂いた絵を売って、バッグ買ってるかもって思われるなら余計にいただけません!」
キョトンとする上条に美月はそう言って、少し寂しそうに笑った。
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