第二章 すずらん return of happiness(再び幸せが訪れる)

16/29
前へ
/169ページ
次へ
 その様子を黙って見つめていた上条は、また椅子の背もたれに身を委ねた。ふわりと風が二人を撫でて過ぎて行く。小さな小鳥だろうか、可愛らしい声が遠くから聞こえた。 「・・・ごめん、ね。わかったよ」  お茶を一口飲み終えた上条は、そう言って頷いた。美月はホッとした反面、遼佑の寂しそうな笑顔に罪悪感すら覚えて弁解する。 「すみません。あ、でもお支払いしていただく金額に見合った、何かをさせてください」    遼佑は口を尖らせて「う~ん」と唸ってから背伸びをする。本当に何も考えてなかったことに、美月は正直驚いていた。 「な~にしてもらおうかな」  やっと寂しい表情は消え、穏やかな遼佑に戻る。美月は遼佑があの日、絵のモデルと言ったことを思い出した。 「絵のモデルにって仰ってたから・・・デッサン?とかですかね?」 「それなら、脱いでもらわないといけないね」  上条はそう言って、ニヤリと妖しげに微笑む。 「それは・・・」  美月が動揺すると、上条はさも可笑しげに笑い出した。 「俺は人物画は描かないと言ったろ?」 「そうでした・・・」  ホッとする美月を、上条は優しげな眼で見つめた。     
/169ページ

最初のコメントを投稿しよう!

273人が本棚に入れています
本棚に追加