第二章 すずらん return of happiness(再び幸せが訪れる)

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そして困惑する美月に気を遣ったのか、上条が小さなクッキーを美月にすすめた。美月は白い皿から一つ取ると、口に入れる。レーズンの入った小さなクッキーは、程よい甘さが口に広がった。 「美味しい・・・」  素直にそう呟く美月を見てから、上条もクッキーを頬張った。そして何かを思い出したように、美月に振り返ってこう言った。   「そうだ。真っ先に聞こうと思ってたんだった。色!美月ちゃんは、何色が好き?」  何かとても楽しげに言い出した上条に、美月は目をパチクリと見開いた。そしてあっさりと名前で呼ばれたことに、少し躊躇する。 「色っ?・・・ですか?」  躊躇している美月を気にも留めずに、上条はワクワクと身を乗り出して答えを待っている。美月は小さな子供を見つめるように、小さく笑った。 「青・・・かな」 「どんな?」  間髪入れずに聞いてくる上条に、美月はまた笑った。 「晴れた空の青空とか・・・。あと海の青も好きだし。なんか元気が出る色なんです」 「スカイブルーとか、オーシャンブルーとかだね。俺はブルシャンブルーとか、濃い青が好きだな」  上条はうんうんと頷いて、白いカップを持ち上げる。美月も、ハーブティーを一口飲み終えてから言った。   「濃い青もきれいですよね。あ、でも嫌いな色って特にないかも」 「ないの?」   「あたしはないです。上條さんはあるんですか?」 「黒」  上条は即答した。 「もしかして?」  美月は吹き出しそうになるのを堪えていた。 「暗いの怖い」 「暗いの怖い」 そう二人は同時に言って、お腹を抱えて笑った。 「いまだに黒ダメって、子供みたいだな・・・俺」  上条は、照れくさそうに片手で顔を覆った。 「じゃあ子供の時、おトイレは一人で行けなかったとか?」  美月はケラケラと笑いながら、上条をからかった。 「仕方ないじゃん。夜は暗いし・・・」  唇を尖らせた上条は、幼い時を彷彿とさせた。美月はそんな上条が可愛らしく感じていた。 「でも、そういや・・・」
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