第二章 すずらん return of happiness(再び幸せが訪れる)

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「何・・・ですか?」  目尻に溜まった涙を拭きながら、美月は聞いた。 「いや、二階も一人で行けなかったな~って・・・」  何か懐かしいものを思い出したのか、上条は顔を覆っていた片手でこめかみの辺りをポリポリと掻いた。 「あぁ、二階も夜って暗いですもんね」 「ん・・・いまだに苦手。暗いとこも黒も・・・」  そう言って、少しまた寂し気な表情になる上条に美月はフォローしようと同意する。 「大人になって我慢できるようになるものもあれば、ダメなものもありますよね。あたしは虫がいまだにダメです」 「虫は苦手な女性、多いよね」  上条がクスリと笑った。 「上条さんって、小さい時から花とか好きだったんですか?」  美月は目を細めながら、上条越しに見える緑に目を向ける。相変わらず、そこには風に揺れる緑が広がっていた。 「うん、そうだね。自然にあるものは、心が落ち着く」 「ホントですね」  そう言って二人が視線を向けたゴンドラ型のブランコに、一羽の小鳥が留まった。そしてすぐに、もう一羽が追いかけるように手すりに留まる。何か話しているのか、クチバシをつつき合うと飛び立って行った。  「しばらくこの庭を堪能しよう」  上条の提案に美月は頷いた。心地よい風と緑が美しい庭。上条の創作意欲は、ここから得ているのだろう。美月は味わったことのない、ゆったりした時間を味わった。
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