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また妖しげに笑うと、上条はアトリエに美月を誘った。アトリエには大きなソファーがあり、美月はそこに腰掛けるように言われると、上条も少し離れて隣に座った。
「う~ん・・・」
上条がそのまま横になり美月の膝に頭を乗せる。美月が驚いて固まっていると上条が
「いや?」
と聞いてきた。
眼にかかる髪の間から、薄い茶色の瞳が覗く。少し充血した眼が、妖艶にすら感じる。
「昨日、嬉しくてなかなか眠れなかったんだ」
~こんな顔からそんな発言は卑怯よ。イヤなんて言える訳がない~
美月が固まっている間に、上条は寝息を立て始めた。長い睫毛に前髪が風で触る。美月はそっと髪を撫でた。上条は定期的な呼吸を繰り返している。風向きが変わって、上条からシプレー系の香りがほんのりとした。男性的な、でも優しい香り。
美月は強い匂いが得意ではないので、滉一は香水などつけない。整髪料もデオドラントスプレーもあまり匂いの強くない物をチョイスして使ってくれている。でも滉一が選ぶ香りとは違った大人な匂いがすると美月は思った。上条の身体から出る大人の男の匂いを感じている気がして、美月はそっとその匂いを吸い込んだ。
午後の穏やかで静かな時間が、ゆらりゆらりと過ぎていく。鳥の鳴く声と木々の囁き、風がまた少し強まってきたようだ。
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