第二章 すずらん return of happiness(再び幸せが訪れる)

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美月はすぐに起き上がり、よろけながらトイレに逃げ込んだ。トイレを我慢していると指摘される事でも十分恥ずかしいのに、遼佑の目は明らかに美月の反応を楽しんでいた。美月はトイレで顔を両手で押さえて、一人身悶えした。  それからまたアトリエに戻ると、遼佑はスケッチブックを持って待っていた。そして美月にソファーに座るように指示すると、遼佑は向かいに座る。何か考え事をしているようで、遼佑の言葉数は少なかった。 「描くんですか?」  美月は不思議になって聞いてみたが、遼佑は無言でスケッチブックと美月のことを交互に見つめている。そして何かを決めたのか一度頷くと、斜めに削られた鉛筆を走らせ始めた。鋭い眼光でくまなく美月を捕らえていく。美月はこの体制で良かったのか、表情はどうしたらいいのかなど聞きたかったのだが、遼佑の真剣な眼差しにとりあえずジッとしていることにした。  何をしていいか、わからない美月は遼佑をぼんやりと見ていた。遼佑が全体を描き終えたのか、一点を舐めるように見つめはじめた。足先を、脹脛を、丁寧に何度も往復している。     
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