第二章 すずらん return of happiness(再び幸せが訪れる)

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これだけ他人に見られたことが、今まであっただろうか。愛してくれている滉一は、美月が髪を切っても気が付かない。痩せてきれいになったと周りに言われても、滉一は気付かない。 「太っても痩せても、髪が長くても短くても美月には変わらない」 滉一はそう言って、誤魔化した。いや、誤魔化したのではなく、本当に愛していてくれているからだろうと美月は思う。だけれど、寂しくなる時がある。 だから遼佑の視線は新鮮に感じた。そっと撫ぜられているような感覚になり、何度も見つめられる脚に力が入る。葵は女優やタレント、モデルなどの職業には決して向いていないと思っていたけれど、そういった職業の人がいつも人気なのはこういった理由があったのかと密かに納得した。  遼佑が鉛筆を置くまでの間に、美月はすっかり顔が上気していた。 「疲れたでしょう。今日はこの辺で」 「いえ、大丈夫です。続けてください」  美月は咄嗟に言うと、遼佑に悟られないようにゆっくりとため息をついた。遼佑は微笑むとキッチンに行って、冷たいペットボトル入りの水を二本持って来ると美月に渡して自分も勢いよく飲んだ。 「じゃあ、もう少しだけ…」  遼佑はまた向かいに行くと、今度は床に座り込んだ。またゆっくりと、美月を見つめていく。 「さっきはこの辺でしたっけ?」     
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